翻訳家・演劇評論家松岡和子さんがお薦めのシェイクスピア関連本3冊

1 「シェイクスピアの正体」 河合祥一郎著 [新潮文庫]osusume1

堅苦しくなく、お勉強というわけでもなく、でも必要最小限の情報も入っていて、おもしろく読めます。シェイクスピアには別人説がいろいろありますが、それらがすべて網羅されていて、どういう人がどんな理由で、あるいは、実はこの人が戯曲を書いて、シェイクスピアは名前だけだったとか……。でも最終的には残念! みんな違うんです。やっぱりストラトフォード生まれの役者シェイクスピアが、作者シェイクスピアだというところに落ち着くわけですが、そのあたりが興味津々、シェイスピアがどういう人だったか、よくわかります。

 

2 「シェイクスピアはわれらの同時代人」 ヤン・コット著 蜂谷昭雄・喜志哲雄訳[白水社]

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ポーランドの学者が著した、この本ほど現代の世界中のシェイクスピア上演に影響を与えた本はないと思います。日本語版初版は1968 年ですが、序文に「英語ならぬシェイクスピアは必ずまず演劇であって、然るのちにやっとテキストになる。ポーランド語で語り、イタリア語で語り、また日本語で語る。英語ならぬシェイクスピアは国民劇となる」、つまり、どんな顔や衣裳であろうと日本語でしゃべれば“ 日本の演劇” になっちゃうということです。私がシェイクスピアを訳し始めて23 年、いま自分でようやく到達した認識がこれなんです。

 

3 「深読みシェイクスピア」 松岡和子著[新潮文庫]

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これまで32本のシェイクスピア戯曲を翻訳してきましたが、翻訳者として、ちょっと取り柄があるかなというのは、稽古場に日参し、役者さんとのやりとりを通し、また、演出家のリクエストに応えるとか、私自身が現場で気づく……、そういうプロセスを体験できているということだと思うんです。稽古場でこそ戯曲の翻訳は完成するという、その証明みたいな本です。書斎で訳しているだけでは気づかなかったことを、俳優さんや演出家が教えてくれる、そんな現場の声を通した深い読み方を読者と共有できれば嬉しいと思います。(松岡和子)

 

こんなところにもシェイクスピア!耳で聴くシェイクスピア

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バロック初期から近現代まで4世紀、16人以上もの作曲家たちによるシェイクスピア歌曲集。文豪自身が書いた劇中歌の英語の響きを、音楽とともに楽しめる。注目すべきは、「With a hey, and a ho, and a hey nonino」といった擬態語・擬声語のリズムが多くあることで、それ自体ユーモラスな、謎めいた、呪文のような効果を上げている。英国の名テノール、イアン・ボストリッジの生き生きとした、透明で柔らかい歌に加え、ロイヤル・オペラ音楽監督として活躍するアントニオ・パッパーノのピアノも劇的で雄弁。(林田直樹)

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